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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)1267号 判決 1955年10月18日

主文

原判決を破棄し本件を札幌高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人長谷川毅の上告理由第一、二点について。

原審は、被上告人は昭和二一年二月上告人から漁業用タール二、〇〇〇屯を、見積り価格金四九五、〇〇〇円で買い受けることを約し、その受渡の方法は、買主たる被上告人が必要の都度その引渡方を申し出で、売主たる上告人において引渡場所を指定し、被上告人がその容器であるドラム缶を該場所に持ち込み、右タールを受領し、昭和二二年一月末日までに全部を引き取ることと定め、被上告人は契約とともに手附金二〇〇、〇〇〇円を上告人に交付したこと、右タールは、上告人が室蘭市所在の日本製鉄株式会社から買い受けてこれを被上告人に転売したものであつて、同会社の輪西製鉄所構内の溜池に貯蔵したものであり、上告人は約旨に従い引渡場所を被上告人に通知し、昭和二一年八月までに代金一〇七、五〇〇円に相当するタールの引渡をなしたが、その後になつて、被上告人はタールの品質が悪いといつてしばらくの間引取りに行かず、その間上告人は、タールの引渡作業に必要な人夫を配置する等引渡の準備をしていたが、同年一〇月頃これを引き揚げ、監視人を置かなかつたため、同年冬頃同会社労働組合員がこれを他に処分してしまい、タールは滅失するにいたつたことを認定した上、売買の目的物は特定し、上告人は善良なる管理者の注意を以てこれを保存する義務を負つていたのであるから、その滅失につき注意義務違反の責を免れず、従つて本件売買は上告人の責に帰すべき事由により履行不能に帰したものとし、被上告人が昭和二四年一一月一五日になした契約解除を有効と認め、前記手附金からすでに引渡を終えたタールの代価を差し引いた金額に対する被上告人の返還請求を認容したものである。以上の判断をなすにあたり、原審は、先ず本件売買契約が当初から特定物を目的としたものかどうか明らかでないと判示したが、売買の目的物の性質、数量等から見れば、特段の事情の認められない本件では、不特定物の売買が行われたものと認めるのが相当である。そして右売買契約から生じた買主たる被上告人の債権が、通常の種類債権であるのか、制限種類債権であるのかも、本件においては確定を要する事柄であつて、例えば通常の種類債権であるとすれば、特別の事情のない限り、原審の認定した如き履行不能ということは起らない筈であり、これに反して、制限種類債権であるとするならば、履行不能となりうる代りには、目的物の良否は普通問題とはならないのであつて、被上告人が「品質が悪いといつて引取りに行かなかつた」とすれば、被上告人は受領遅滞の責を免れないこととなるかもしれないのである。すなわち本件においては、当初の契約の内容のいかんを更に探究するを要するといわなければならない。つぎに原審は、本件目的物はいずれにしても特定した旨判示したが、如何なる事実を以て「債務者ガ物ノ給付ヲ為スニ必要ナル行為ヲ完了シ」たものとするのか、原判文からはこれを窺うことができない。論旨も指摘する如く、本件目的物中未引渡の部分につき、上告人が言語上の提供をしたからと云つて、物の給付を為すに必要な行為を完了したことにならないことは明らかであろう。従つて本件の目的物が叙上いずれの種類債権に属するとしても、原判示事実によつてはいまだ特定したとは云えない筋合であつて、上告人が目的物につき善良なる管理者の注意義務を負うに至つたとした原審の判断もまた誤りであるといわなければならない。要するに、本件については、なお審理判断を要すべき、多くの点が存するのであつて、原判決は審理不尽、理由不備の違法があるものと云うべく、その他の論旨について判断するまでもなく、論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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